2020年度上半期論文ハイライト part 2

投稿者: 前田恵理子 / 投稿日: 2020年09月17日
2020年4-9月に東大放射線科の医局員が筆頭著者となり、アクセプトされた論文からハイライトをご紹介いたします。第2弾は、治療部の扇田真美先生と山下英臣先生、そして診断部門の前川朋子先生です。

扇田真美先生(東大放射線科助教(治療部門))

Clinical outcome of adjuvant radiotherapy for squamous cell carcinoma of the breast; a multicenter retrospective cohort study. Ogita M, Shiraishi K, Karasawa K, Tokumasu K, Nakajima N, Chang T, Kawamori J, Yamashita H, Nakagawa K. Breast. 2020 Aug;52:88-94. doi: 10.1016/j.breast.2020.05.003. Epub 2020 May 14.

内容紹介

乳癌の中でも0.1%以下の頻度といわれる乳腺原発扁平上皮癌に対する術後放射線治療の臨床結果をまとめた多施設共同後ろ向きコホート研究です。乳腺原発扁平上皮癌に対する放射線治療の効果についての報告はこれまでにほとんどなく、最大規模の症例数となっています。稀な疾患のため、都内でも有数の放射線治療施設の先生方のご協力を得て実現することができました。

ひとこと

放射線治療は様々な癌種の治療にたずさわることのできる魅力のある仕事です。癌の初期治療から緩和治療まで、様々な段階の治療に関わることができます。放射線治療とはどのようなものか、実際に見てみないと分からないかと思います。ぜひ一度見学に来てください。

山下英臣先生(東大放射線科専任講師(治療部門))

Linear accelerator-based stereotactic body radiation therapy in the treatment of oligometastatic disease. Yamashita H, Ogita M, Aoki S, Abe O, Nakagawa K Mol Clin Oncol. 2020 Aug;13(2):109-114. doi: 10.3892/mco.2020.2065.

内容紹介

オリゴメタ(少数転移)に対して体幹部定位照射(SBRT)を実施した結果報告です。5グレイ*10回/2週間と比較的短期間で終わる治療法です。これによりホルモン療法や化学療法などの全身治療をある一定期間お休み出来て全体として生存期間が延長することを期待しております。

ひとこと

ミスチルも最近は彼らが若い時のように新曲を沢山は出せないように年を取っていくとなかなか論文を沢山書くことが難しくなっていきます。30-35歳ぐらいが一番沢山かける時期だと思います。インパクトファクターは裏切りません。マリオのコインのように貯められるうちに貯めて下さい。

前川朋子先生(慈恵会医科大学 再生医学研究部に国内留学中)

Differentiation of high-grade and low-grade intra-axial brain tumors by time-dependent diffusion MRI. Maekawa T, Hori M, Murata K, Feiweier T, Kamiya K, Andica C, Hagiwara A, Fujita S, Koshino S, Akashi T, Kamagata K, Wada A, Abe O, Aoki S. Magn Reson Imaging. 2020 Oct;72:34-41. doi: 10.1016/j.mri.2020.06.018.

前川先生

内容紹介

従来のpulsed gradient spin echo (PGSE)法による拡散強調像と比較して、oscillating gradient spin echo (OGSE)法による拡散強調像ではmotion probing gradient (MPG)を波形にすることで拡散時間を大幅に短縮できるようになりました。それゆえ、apparent diffusion coefficient (ADC)の変化によって内部構造を推定する手法として期待されています。本研究において、異なる拡散時間におけるOGSE法の拡散強調像を比較することで、低悪性度(WHO grade Ⅰ, Ⅱ)と高悪性度(WHO grade Ⅲ, Ⅳ)の脳実質内腫瘍が鑑別できるか検討したところ、subtractionしたADC値の最大値は低悪性度よりも高悪性度の脳腫瘍で有意に高いという結果になりました。臨床MRI機の拡散時間は細胞サイズを直接定量化するにはまだ長すぎますが、腫瘍グレード間の拡散時間依存性の違いはおそらく脳腫瘍の構造的複雑さの違いを反映していると考えられます。よって、短い拡散時間の拡散強調像を追加することは、脳実質内腫瘍の悪性度を評価するのに有用である可能性が示唆されます。

ひとこと

昨年度大学院を卒業しましたが、こちらの論文は学位論文中の最後のパートとして執筆したものでしたので、無事にアクセプトされてホッとしています。 「拡散強調像で高信号を示すものが、なぜ高信号を示しているのか」という疑問から、OGSEの研究に積極的に携わっています。「なぜ?」を解決するために取り組む研究は、とてもワクワクするものです。論文という形にするには心折れそうになる時もありますが、自分の興味を追求して研究活動をすることはとても楽しいことであり、苦労があっても自然と乗り越えられます。 研究とは、臨床現場で抱いた疑問を解決するためにあるものだと、私は思います。若い先生でこれから研究に取り組もうと考えておられる先生方は、ぜひこの「ワクワク」という気持ちを持って研究に取り組んでくだされば、きっと楽しく充実した研究活動を継続していけるかと思います。


扇田先生、山下先生、前川先生、おめでとうございます!