(リード文・編集:前田恵理子)

博士論文
造影CT画像からの心臓内腔の3DCG立体再構成による小児心室中隔欠損症診断に関する研究
要旨
小児の心室中隔欠損症(Ventricular Septal Defect, VSD)47症例に対し、平均推定実効線量0.24 mSvの低線量心臓造影CT画像からリアルタイムに心臓内腔の3次元コンピュータグラフィックス(Three Dimensional Computer Graphics, 3DCG)を作成し、裸眼立体視ディスプレイ上で表示・検討することで、1~2分半程度で7~9割以上でVSDの位置診断及びVSDの径の推定を行えることを示しました。
本研究により、これまで主に心臓外の血管構造や病変を確認する目的で撮影されていた心臓造影CT画像からVSDの位置診断及び径の推定を行えることが示されました。
盛り沢山な内容なのですが、心室中隔欠損症(VSD)という、心臓の右心室と左心室との間にある心室中隔に一部穴が開いた状態で、右心室内の血液と左心室内の血液とが混ざってしまう病気についての研究です。
かなり専門的な内容になりますが、心室中隔のどこに穴が開いているのかで手術の方法が変わるため、穴が「どこに」「どのように」開いているかによって心室中隔欠損は下図のように細かく分類されています。

穴の場所によってdoubly committed, perimembranous outlet, muscular trabecularなどに分類されており、さらにいくつかをまとめて例えばKirklin分類と呼ばれる分類などがあります
穴が開いていること自体は造影CT画像からわかっても、それ以上の「どこに」「どのように」までCT画像から判断出来るとはこれまで思われていませんでした。
今回の研究では、
造影CT画像を基に心臓内腔の適切な3DCGを作ると、実は心室中隔欠損の位置や大きさをかなり具体的に把握出来る(「どこに」「どのように」がわかる)
その造影CT画像を撮るために必要な放射線量が、0.24 mSvという現時点で世界最小の被ばく量で可能
その3DCGを、最新の裸眼立体視ディスプレイ上で観察すると、1~2分程度でVSDの位置分類(=「どこに」)と形(=「どのように」)を立体的に把握出来る
ことを示しました。
3DCGを作るソフトウェアは私が自分の会社で開発しました。
例えば下図のような3DCGを簡単な操作ですぐに作ることが出来、自由に断面を作ったり、見る角度を変更したり出来ます(文字は後から載せています)。どちらも心室中隔を右心室側から見た状態です。

小児の心臓は心拍数が高く、弁を描出することは残念ながら難しいのですが、小児心臓の先生がご覧になれば弁が描かれていなくても心臓内腔の形状から、左の症例はdoubly committed VSD、右の症例はperimembranous VSDであることが見た瞬間にわかります。
右心室と肺動脈(PA)との間にはsupraventricular crestという突き出た部分があり、このcrestよりも上にVSDがある場合(左の症例)では手術では肺動脈を切開してVSDを観察し、crestよりも下にVSDがある場合(右の症例)では右心房を切開してVSDを観察します。crestよりも下にVSDがあるときに肺動脈を切開しても、このcrestが突き出ているためVSDを観察することが出来ません。
また、例えば下の2つの図は全く同じ心臓を別の角度から観察したときの3DCGなのですが、

左は最初に紹介した図2の2つの症例とほぼ同じように右心室側から心室中隔を見たときの様子なのですが、VSDがどこにあるのかぱっと見わかりません。そこで右の図のように、上から見下ろしてみると、横長に広がるVSDがあることがわかります。実はこの症例も、VSDの分類としては図2の左の症例と同じくdoubly committed VSDなのですが、このように同じ位置診断でも症例ごとに見え方も形も全く異なるのです。
…というように、適切な3DCGを作ると、こんなにも鮮明にVSDをバーチャルで観察することが出来ます。
自作のこのソフトウェアは、CT画像から3DCGを生成する既存のソフトウェアより10倍~100倍近く高速で、CGの質感もゲームや映画で使われるような最新の手法を取り入れているなど、技術面でも様々な特徴があるのですが、そのあたりは博士論文の中で紹介しています。
176ページもある長い長い博士論文ですが、論文内では各種統計解析などもしっかりしておりますので、ご興味ある方はぜひお読み頂ければ幸いです。
ひとこと
放射線治療とは全く関係のない研究にもかかわらず、指導教官の中川先生に全面的に賛同して頂き、東京大学医学部附属病院小児科循環器班、心臓外科小児心臓班の先生方、及び小児心臓CTに関しては放射線科診断部の前田恵理子先生に全面的に協力して頂き、今回の研究を行うことが出来ました。