2021年度下半期論文ハイライト part 2

投稿者: 前田恵理子 / 投稿日: 2022年01月22日
2021年10-12月に東大放射線科の医局員が筆頭著者となり、アクセプトされた13論文からハイライトをご紹介いたします。第二弾は、おなじみ戌亥章平の2論文、黒川遼先生の3論文をご紹介します。この量産ペースのコツ、見習いたいものです。

戌亥 章平 先生

東大放射線科 大学院生(医師7年目、放射線科5年目)

Inui S, Gonoi W, Kurokawa R, Nakai Y, Watanabe Y, Sakurai K, Ishida M, Fujikaw a A, Abe O. The role of chest imaging in the diagnosis, management, and monitoring of coronavirus disease 2019 (COVID-19). Insights Imaging. 2021 Nov 2;12(1):155. doi: 10.1186/s13244-021-01096-1.

論文紹介

一連のCOVID-19研究の集大成として、その胸部画像所見(CT、X線写真、超音波)に関して、昨年、今年と各所で講演させていただいた内容を総説としてまとめました。新たに出現した疾患に対して、徐々にエビデンスが蓄積されてその輪郭が浮き彫りになり、さらに分類や基準が作成されて、それが臨床に利用されていく過程を描出することを主眼としました。内容を簡略化した日本語版は臨床画像2021年10月号に寄稿させていただきました。

ひとこと

これからも価値を生み出せるように精進して参ります。

Inui S, Yoshizawa S, Shintaku T, Kaneko T, Ikegami H, Okuno Y. Intra-Arterial Infusion of Imipenem/Cilastatin Sodium through a Needle Inserted into the Radial Artery as a New Treatment for Refractory Trapeziometacarpal Osteoarthritis. J Vasc Interv Radiol. 2021 Sep;32(9):1341-1347. doi: 10.1016/j.jvir.2021.06.024.

2021年9月にJ Vasc Interv Radiol.誌に掲載された戌亥先生の論文

論文紹介

肩、肘、膝などの痛みに対する運動器カテーテル治療が国内外で脚光を集めています。疼痛部位に異常な血管増生が見られることがありますが、それを塞栓することで疼痛軽減効果が得られるという新しい治療法です。昨年には、膝関節に対する経カテーテル治療が米国FDAによって認可されました。今回は、母指CM関節症に対する動注療法の初期経験を論文化させていただきました。

ひとこと

IVRの歴史はイノベーションの歴史と言っても過言ではありません。これからもどんな新たなイノベーションが生まれてくるのか楽しみです。

黒川 遼 先生

ミシガン大学放射線科神経放射線部門(医師11年目、放射線科9年目)

Kurokawa R, Kamiya K, Koike S, Nakaya M, Uematsu A, Tanaka SC, Kamagata K, Okada N, Morita K, Kasai K, Abe O. Cross-scanner reproducibility and harmonization of a diffusion MRI structural brain network: A traveling subject study of multi-b acquisition. Neuroimage. 2021 Dec 15;245:118675. doi: 10.1016/j.neuroimage.2021.118675.

NeuroImage誌に掲載された黒川先生の論文

論文紹介

拡散MRIは非侵襲的に組織の微小環境の特徴を掴むための有用なモダリティですが、多施設の撮像機で得られたデータを統合する際には撮像機や施設間同士のバイアスが問題になります。本研究では4つの撮像機を周って脳を撮像された患者(traveling subject)のデータを用いて、データの信頼性や再現性を調べ、さらにバイアスの除去(harmonization)を3種類の方法(LinearRISH, TS-GLM, ComBat)で比較しました。

ひとこと

私が最も尊敬する先輩である神谷先生に、何から何までお世話になりました。本当にありがとうございました。

Kurokawa R, Baba A, Kurokawa M, Pinarbasi ES, Makise N, Ota Y, Kim J, Srinivasan A, Moritani T.J Neuroimaging features of diffuse hemispheric glioma, H3 G34-mutant: A case series and systematic review. Neuroimaging. 2021 Oct 11. doi: 10.1111/jon.12939.

2021年10月にJournal of Neuroimaging誌に掲載された黒川先生の論文

論文紹介

2021年のWHO分類 (WHO CNS5)で新たに収載されたCNS WHO grade 4の腫瘍であるDiffuse hemispheric glioma, H3 G34-mutantのsystematic reviewです。ミシガン大学で3例診断されていたので、既報と併せてまとめました。若年者の大脳半球に多く、サイズが大きいためか髄膜や上衣に接しやすい特徴があり、MRIで境界不明瞭の症例では境界明瞭の症例に比べて生命予後が不良であることなどが分かりました。

ひとこと

ミシガン大学での2本目の筆頭論文です。執筆時点ではまだWHO分類がどうなるか未知数だったのですが、森谷教授にcIMPACT-NOW関連の脳腫瘍に注目するようご指導いただいたおかげでタイムリーな報告となりました。また当時(2021年6月)は臨床情報へのアクセスがまだ限定的にしか許可されておらず、論文用のデータ収集にかなり困っていたのですが、Ashok Srinivasan教授にsystematic reviewであれば自験例が限られていても良い論文が書けると励ましていただき、そういったメンターの教授陣のおかげでこの論文を生み出すことができました。ありがとうございました。

Kurokawa R, Baba A, Kurokawa M, Ota Y, Hassan O, Capizzano A, Kim J, Johnson T, Srinivasan A, Moritani T.J Neuroimaging of astroblastomas: A case series and systematic review. Neuroimaging. 2021 Nov 23. doi: 10.1111/jon.12948.

2021年11月にJournal of Neuroimaging誌に掲載された黒川先生の論文

論文紹介

稀な脳腫瘍であるAstroblastomaについて、画像所見の評価可能な論文に限定し、8例の自験例と臨床・画像所見をまとめたsystematic reviewです。WHO CNS5では "Astroblastoma, MN1-altered" という名称に変更となりましたが、多くの施設ではlow-grade, high-gradeの組織学的分類がしばしば用いられています。79症例のastroblastomaは形態的に4つに分類できることが分かり、さらに形態によってhigh-grade腫瘍の頻度に差があることが新たに示せました。

ひとこと

ミシガン大学での3本目の筆頭論文になります。Figureに使用したイラストは妻の黒川真理子先生に描いてもらいました。Systematic reviwやMeta-analysisは作業量が多く大変ですが、題材を間違えなければ高確率で論文化に漕ぎ着ける上に、エビデンスレベルも高く、世の役に立つことができます。症例が限られている環境でも頼もしい武器になるので、若手のうちに手法を身に着けておくと良いと思います。次回のハイライトではsystematic reviewではなく、原著論文をいくつかご紹介できると思います。