2020年度下半期論文ハイライトpart3

投稿者: 前田恵理子 / 投稿日: 2021年04月14日
2021年1‐3月に東大放射線科の医局員が筆頭著者となり、アクセプトされた論文からハイライトをご紹介いたします。第1弾は、片野厚人先生、石田尚利先生と國松聡先生による4編をご紹介します。

片野厚人先生(東大放射線科 助教)

片野先生:2020年度下半期論文ハイライトMCO画像

Katano A, Takenaka R, Yamashita H, Ando M, Yoshida M, Saito Y, Asakage T, Abe O, Nakagawa K. A retrospective analysis of radiotherapy in the treatment of external auditory canal carcinoma. Mol Clin Oncol. 2021 Mar;14(3):45. doi: 10.3892/mco.2021.2207

内容紹介

外耳道癌は100万人に1人程度の希少疾患です。同疾患の当院における放射線治療の成績を約20年の後方視研究にて、生存率、再発形式、救済治療の解析を行いました。

片野先生:2020年度下半期論文ハイライトCUREUS画像

Atsuto Katano, Hideomi Yamashita, Keiichi Nakagawa Metastasis-Directed Radiotherapy for Oligometastatic Castration-Resistant Prostate Cancer Cureus. 2021 Feb 7;13(2):e13199. doi: 10.7759/cureus.13199

内容紹介

転移性去勢抵抗性前立腺癌の患者さんにオリゴ転移(5個以下の少数転移)に対するMetastasis-directed therapyとして放射線治療を実施した1例の報告です。近年、オリゴ転移に対する治療のエビデンスが急速に集まりつつありますが、この一方で治療と仕事の両立も現代のがん治療において大切な課題の一つです。本症例の患者さんはお仕事を続けながら外来通院のみで本治療を完遂することができたことも重要なポイントかと思います。

ひとこと

若手の皆様の御活躍を御祈り申し上げます。

石田尚利先生(東大放射線科 助教)

石田尚利先生:2020下半期論文ハイライト画像

Ishida M, Gonoi W, Abe H, Shirota G, Fujimoto K, Okimoto N, Ushiku T, Abe O. Longitudinal comparison of ascites attenuation between antemortem and postmortem computed tomography. Forensic Sci Int. 2021 Feb 18;321:110727. doi: 10.1016/j.forsciint.2021.110727

内容紹介

同一症例の生前CTと死後CTの腹水濃度を比較した研究です。死後CTの腹水濃度が高いのに、解剖で腹水の性状に異常がなかったというところから研究のヒントを得ました。死亡前に造影CTで投与された造影剤が腹水に漏れ出ているのだろうと考えられます。

ひとこと

死後画像の研究をはじめて12年目に突入しました。臨床への直結性が見えにくい面はありますが、死因究明という社会医学、法医学に関わる領域でもあります。興味のある先生は一緒に頑張りましょう。

國松聡先生(国際医療福祉大学 医学部教授)

Kunimatsu A, Yasaka K, Akai H, Sugawara H, Kunimatsu N, Abe O. Texture Analysis in Brain Tumor MR Imaging. Magn Reson Med Sc 2021 Mar 10. doi: 10.2463/mrms.rev.2020-0159.

内容紹介

 日本磁気共鳴医学会の英文誌 Magnetic Resonance in Medical Sciences が創刊20周年を迎えるにあたり2021年冬ごろに記念号を発刊する予定で、この総説はその掲載論文の1つです。脳腫瘍を対象としたMRIを用いたtexture解析(や、より包括的な手法であるradiomics)の現在までの知見や動向を、私どもの発表論文も交えてレビューしています。  定量化やprecision medicineに関する全世界的な潮流の一環として、近年、radiomics研究は急速に拡大してきました。人間の眼に認識できない画像統計情報を計測する手法として大きな役割が期待されています。Texture解析やradiomics研究では、特に初期の頃は手法にバラツキが多く、また、単一施設での限られた症例数での検討がほとんどでした。そのため、(自施設のデータに特化したためか)論文では良好な成績が報告されているのに、他施設に当てはめると期待したような成績が出ないということが経験されました。このような一般化可能性の限界が、手法に対する信頼や臨床応用を妨げてきました。 しかし、この数年でImage Biomarker Standardization Initiative (IBSI) による手法のガイドライン、さらにradiomics quality score (RQS)と呼ばれる研究の質の評価基準が次々と提唱されてきています。これらの試みはtexture解析やradiomics研究で得られた知見の一般化可能性や再現性の向上を目指した努力の一環です。一般的な医学研究では研究対象は均質であることが望ましい場合が多いですが、radiomics研究では幅広いデータを含む多施設多症例での検討が望ましいとされています。ただし、データの多様性増加によりモデルの予測精度は低くなりやすくなるので、汎化性能とモデル性能のバランスが重要になると個人的に考えています。

ひとこと 

AI (artificial intelligence) と同様にradiomicsもnon-MD data scientistが参入しやすい分野です。Radiomicsで何かを研究するなら今のうちに!