造影剤安全性講習

投稿者: 前田恵理子 / 投稿日: 2020年11月13日
CTやMRIの造影検査では、低い頻度ですが一定確率でアナフィラキシー反応が起きることがあり、重篤な場合は生命に関わります。造影剤を使う限り避けられないリスクのため、日頃から研鑽を行い、正確な判断と対応ができるようにならなくてはいけません。東大放射線科では、造影剤の安全性講習や急変シミュレーションを行っています。

造影剤の安全性セミナーは、2020年10月27日に南研究棟 鉄門臨床講堂で行われました。対象は、放射線部の診療放射線技師50名です。

放射線科2年目(医師4年目)の谷島智哉先生が講師を務めました。

造影剤安全性セミナーで講演する谷島先生
谷島智哉先生

参加者の1/3は、ソーシャルディスタンスを確保して講堂で参加。残り2/3はオンラインで参加しました。実地に即した素晴らしいご講演に、皆さん表情は真剣そのもの。終了後は受講者から活発なコメントや質問が飛び、web参加の放射線部副部長(放射線科医)の佐藤次郎講師を交えてディスカッションが行われました。

参加者は真剣そのもの

谷島先生より、内容紹介とひとこと頂きました。

内容紹介

東大病院放射線部で「医療監視で指摘される医薬品安全の講習会」として、造影剤の安全使用をテーマに講演をさせていただきました。アナフィラキシーの経過や症状は多彩で、アナフィラキシーの定義自体を知っていないと発症に気付くことができない場合があります。日本アレルギー学会のアナフィラキシーガイドラインで定められているアナフィラキシーの診断基準や対応について学んでいただき、当院症例(アナフィラキシーに正しく対応できた症例)と日本安全医療機構からの提言「注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析」の4症例について検討致しました。現地(鉄門臨床講堂)とWebによるハイブリッド開催となりましたが、多くの方々にお集まりいただき、講演後には貴重なご質問・ご意見を頂戴致しました。

ひとこと

一昔前に比べ造影剤の安全性は向上しましたが、今なおその副作用は無視することができません。今後も放射線部全体の意識向上に努めて参ります。本講演で紹介したアナフィラキシーガイドライン(特に1ページ目)と日本安全医療機構からの提言(特に造影剤関連の4症例について)は是非ご一読いただければと思います。

続いて11月5日には、CT室にて急変シミュレーションが実施されました。急変シミュレーションは年2回、CT室とアンギオ室で実施しています。本当はMRI室でも行いたいのですが、強磁場のMRI室に多くの人が集まること自体にリスクがありますので、検査室編はCT室で一元的に行っています。

会場となった151番のCT室には、多くの看護師、診療放射線技師が詰めかけ、打ち合わせを行いました。

CT室急変シミュレーションの打ち合わせ行う看護師さん達
CT室急変シミュレーションの打ち合わせを行う診療放射線技師さん達

今回のスキームは、CT造影剤アナフィラキシーによる心肺停止。初期研修医が造影剤を接続、注入終了後に操作室からCT室に入った診療放射線技師が異変に気付くところから始まります。大声で操作室のスタッフを呼びますが、検査室は遮音性が良いのでなかなか気が付いてもらえません。

造影剤注入終了後に検査室に入り、異変に気づいた技師が応援を呼びます

気づいた医師が心停止を確認、即座に心臓マッサージを始めます。1回目の医師役は、初期研修医で救急科志望の有田和旦先生(左)と、初期研修医で呼吸器内科志望の戸田嶺路先生(右)です。診療放射線技師、看護師が続々と応援に入り、救急部コール、蘇生の助手、バイタル測定、環境整備、記録係などをてきぱきと分担していきます。

CT室急変シミュレーション第1ラウンド

5分間心臓マッサージとAMBUバッグによる人工呼吸を頑張ったところで救急部が到着し、引継いだというシナリオで終了しました。終了後は皆で振り返り。オブザーバーとして見学していた各職種の方や実際の実施者から活発な意見が上がります。

参加者みんなで振り返りタイム

これを全部で3周繰り返します。2周目の医師役は、造影剤の安全性セミナーの講師をしてくれた谷島智哉先生(右)と、1周目にも登場した初期研修医の戸田嶺路先生です。

CT室急変シミュレーション第2ラウンド

3周目の医師役は、大学院4年生の山下博司先生(2列目左から3番目)と、放射線科医3年目で大学院1年目の坂本直也先生(2列目左から2番目)でした。

CT室急変シミュレーション第3弾

参加された有田和旦先生と山下博司先生にひとことずつ頂きました。

有田和旦先生(研修医2年)

医師、看護師、放射線技師などを交えたCT室の急変時シミュレーションを行いました。私自身、一度造影剤アレルギー症状と思われる全身のしびれと血圧低下を目の前で経験しており、その時の経験をイメージしながらシミュレーションを行いました。非常に多くの方の参加があり、急変時に対する共通の認識を持てたことや、シミュレーションをすることで浮上した問題点などを皆で共有して改善していく事の重要性を確認できました。

今後、救急科へ進む予定としておりますが、将来に繋がる貴重な体験となりました。今後に活かしていきます。

山下博司先生(大学院4年生)

CT室での急変(CPA)というのは起こりえることではありますが実際の頻度は低いため、「発生時には速やかな対応が必要でありながら、実践する機会はあまりない」という類のイベントに分類されると思います。また一般的なBLSの流れを抑えていても、実際の対応の際には物品の位置や応援の要請の仕方など、発生場所特有の条件に左右される部分が少なからずあります。急変時の初期対応は患者さんの転帰を左右する重要な要素となりうるため、このような条件下で速やかに初期対応を行うためには定期的な対応の確認や実演が必要になってくると思われます。

参加者には自分も含めてBLSを受講した経験のあるスタッフもいましたが、自分の時もバックバルブによる換気開始がやや遅れるなど、シミュレーションごとに至らない点があぶりだされ、繰り返すうちに対応がスムーズになっていきました。特に急変はその性質上突発的に発生するため、そのような場合にも適切な対応がとれるか、自分の知識の確認や整理ができました。今後も機会があれば定期的に実施または参加していきたいと思います。


これからも東大放射線科では、放射線科、診療放射線技師、看護師が一丸となって、検査室の安全性向上に取り組んでいきたいと思います。