医科研の動物実験

投稿者: 前田恵理子 / 投稿日: 2020年11月13日
医科研放射線科医局でのインタビューを終えたのち、赤井宏行講師の案内で、SPF(Specific Pathogen Free;実験動物自体やヒトの健康に影響する可能性がある特定(specific)の細菌やウィルスなどの病原体(pathogen)が存在しない(free)状態や環境のこと)棟を訪問しました。

医科学研究所放射線科では、すべての動物実験はこのSPF棟で行われているそうです。

SPF棟入り口にて、専用のツナギに着替えます。ツナギは白と青の2種類があり、私服の上から白いツナギを着て、青いツナギは袋のまま持参します。

SPF棟入り口での着替え風景
キャップ、マスク、グローブをして着替えが完了すると、こんな感じ。お肉屋さんみたいです。

写真の奥の銀色の扉の先はエアーダスターとなっていて、一人ずつしか入れません。あらゆる方向から勢いよく空気が噴射されるので、手を上げて全身くまなくきれいにしたら、反対側の扉から出ます。ここから先は、花粉症の方にとってはパラダイスな空間とのこと。

撮影室に案内してもらいます。左側の黒い箱がIVISシステムという、光イメージングのための撮像機器、右側が麻酔器です。

IVISシステム

黒い箱を開けると2枚目のように撮像用固定具が5つ並んでいます。真ん中の穴についている白い部品は麻酔器につながっており、マウスの鼻をここに入れて寝かせるそうです。

IVISシステムの中

蛍光色素を注射して、撮像すると、こんな画像が得られます。腫瘍に集積する薬剤を注射して撮像することで、腫瘍の大きさの推移を追ったりすることができます。

IVISシステムを用いて撮像されたマウスの画像

こちらはマウス用MRI。1テスラですが、これだけ小さいとシールドも必要ないそうです。写真には写っていませんが、右のほうにIVISと同じような麻酔器がつながっています。

マウス用MRI外観
コイルはこんな感じ

茶色い蓋を開けてマウスを寝かせ、麻酔をかけます。マウスを置いたコイルをガントリーにセットします。

マウス用コイルをセットしているところ
マウス用コイルをセットしたMRI

完全にコイルをセットしてしまうとマウスの生存確認のしようがないため、呼吸モニターの波形で異変を察知しているそうです。青いリードの先に着いた白い円盤(モニター端子)をマウスに巻き付けて、腹壁の上下動を見ます。モニター端子を手でペコペコ押すと、モニターに波形が映りました。マウスの固定一つとっても、きつく縛ってしまうとそれだけで麻酔をかけたマウスが窒息してしまうため、スキルが必要とのことです。

マウス用呼吸モニター

いよいよ観察です。

マウスの肝臓の画像を観察する赤井先生。

この部屋にはほとんど人が入ってきません。つまり、現状では放射線科がほぼ独占的に機器を使用できる、恵まれた実験環境だそうです。但しそれは、研究を行う際はこの部屋に一人きりで何時間もこもることになることを意味します。

「穿刺がうまくいかなくても、マウスが急変しても、全部自分の責任で誰も助けてくれない」と赤井先生。精神力が鍛えられる、孤独に強くなるともおっしゃっていました。

別室で放射線治療の機械を見学します。

マウス用放射線治療機

突き当り中央にあるのが治療機。照射するときは全身照射をすることになります。学生時代、「放射線生物物理学」の授業で、様々な線量で照射されたマウスの組織反応(確定的影響)を観察する実習を行ったことを思い出しました。診断と桁違いのX線を照射する治療機でも、シールドは必要ないそうです。

この後、実際にマウスが飼われている部屋を見学しました。初めの着替えの際に手に持った青いツナギを覚えていますでしょうか?白いツナギの上から青いツナギを着て、キャップと手袋も二重、マスクも交換します。写真は撮れなかったのですが、各科で飼っている沢山のマウスが入ったケージがずらりと並んだ光景は圧巻でした。

医科研の動物実験は、2代前の准教授である井上優介先生(現・北里大学放射線科教授)、前准教授である桐生茂先生(現・国際医療福祉大学放射線科教授)と、連綿と受け継がれてきました。ノウハウも豊富に蓄積されており、困ったときは今でも、桐生先生が親身に相談に乗って下さっているそうです。これからも好奇心あふれる若い先生方が動物実験に挑戦し、放射線科の貴重な「基礎系」研究室の灯を受け継いでいただけたら、と思いながら白金台を後にしました。

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