IVRチームインタビュー【前編】

投稿者: 前田恵理子 / 投稿日: 2020年11月29日
血管造影やCTガイド下生検を担うinterventional radiology (IVR)。診断・核・治療に続く放射線科の4本目の柱とも言えるような充実した診療体制で、止血、塞栓、狭窄した脈管のステントなどの治療に主治医と患者さんに頼られています。院内でも特にIVRに力を入れている、放射線部副部⾧の佐藤次郎講師、放射線科助教の柴田英介先生、久保貴俊先生にお話を伺いました。
左から助教の柴田英介先生、放射線部副部⾧の佐藤次郎講師、助教の久保貴俊先生。東大放射線科IVR をけん引する先生方です。

(2020年11月18日、MRI室と血管造影室にて。聞き手は特任助教の前田恵理子)

1、 東大で扱っている主なIVR

―――本日はお忙しい中、貴重なお時間を割いてくださりありがとうございます。まず、東大のIVRでは どのような手技を扱っているのでしょうか?

佐藤先生(以下敬称略):どの施設でもやはり、肝細胞癌(HCC)に対する経動脈的カテーテル塞栓術 (TACE)が一番多いですね。あと、中心静脈(CV)ポートが増えています。CV ポートに関しては外科医はオペ室でやることもあるのですが、それ以外の科は放射線科に依頼することが本当に増えていて、全国的にその傾向があります。

―――昔は東大放射線科でも治療部の病棟で入れたりしていましたよね。

佐藤:そう。でもやはり病棟でブラインドで(X線透視を使わず)入れると合併症が多くなるんですよね。医 療の安全性が非常に重視されているご時世ですから、すっかり放射線科に集約する方向に変わっています。今はCVポートだけで、週3~4件はあります。1枠で2件やることもあり、年間200件くらいだと思います。

柴田:TACEについては、C型肝炎の減少と共にやはり減少傾向ですね。

血管造影の穿刺風景

久保:増えていると言えば、 CTガイド下の手技がどんどん増えていて、生検だけで年間150件くらいです。CTガイドに関しては、ドレナージを緊急で頼まれることも多いです。

佐藤:CTガイドは、臨床科も困っていて、患者さんもぐったりしているときにお役に立てるので、やりがいが大きいですね。

CTで位置を見ながら標的を穿刺し、生検やドレナージを行うのがCTガイド下のIVRです。

―――TACE、CVポート、CTガイド下の他にはどんな手技がありますか?

佐藤:言い出すときりがないですけど、まず、緊急の止血IVR(術後、救急、産科)はコンスタントにやっています。術前の内腸骨動脈バルーン留置は、前置胎盤や帝王切開の前に依頼されることがありますが、産科にとっても、我々が止血ができること、いざとなったらバックアップできることは強みみたいですね。

柴田:あとは肝臓切除前の門脈塞栓は年間20件くらいやっていると思います。整形外科など多血性腫瘍の術前塞栓、真性動脈瘤・仮性動脈瘤あたりも来ます。

―――これぞ東大、というIVRはありますか?

久保:肝移植後のトラブル、たとえば門脈ステント、肝静脈ステントなんかは東大らしい手技ですね。外科が肝移植をやっていなければ経験できないので。

―――各科でも血管造影やインターベンションをやっていますが、放射線科のIVRの特徴は何ですか?

佐藤:難しい症例や、背景が複雑な状態の方は放射線科に依頼されます。肝臓、膵臓のIVRは放射線科がすべて実施していますし、消化器以外にも様々な診療科から依頼が来ます。色々な科から頼まれて仕事をする点は、診断学に近いものがあると思っています。依頼科としても、放射線科でまとめてやっていると、診療科ごとに手技が分かれているより頼みやすいみたいですね。

2、 IVRのトレーニング

―――IVR医として独り立ちするプロセスを教えてください。

佐藤:東大では、診断の人は全員dutyの一環としてやることになっています。週1~2コマですね。IVRはどんなに経験したくても、依頼がなければできません。そういう意味では、アンギオをやっている施設に所属したときが始め時だと思います。

柴田:いまは放射線科専門医受験の要件としてIVRの経験数を問われるので、全員に従事してもらうという面もあります。

―――IVR専門医を取るにはどうしたらよいのですか?

柴田:前提として、診断専門医がないとIVR専門医はとれないので、まず診断専門医を取ることですね。そのうえで、経験数と、IVR領域での論文の筆頭著者あるいは学会発表の筆頭演者となることが必要です。

佐藤:他には2年か5年かで200症例の経験が必要です。最近コロナで流動的ですけど。研修期間には、IVR修練機関にて1年間以上の経験が必要です。

久保:あと、IVR学会に入会してからの年限が問われるので、放射線科に入局したら、少しでも興味があるなら入局と同時に、日本医学放射線学会と同時に入会して下さい。取得までの道筋はかなり人によって違いますけど、画像診断の勉強と並行してやる方が多いです。

佐藤:専門医を取得した後、基本を越えて何かの手技に特化しようと思ったら、それ次第でその手技が経験できる施設に行く必要があります。入局当初からやりたいことがはっきりしていれば、専門の施設を志しますが、あまりそういう人はいないですね。もしご興味があれば相談してみて下さい。うちでは原則として全員IVRを経験するので、やってみたいと思い立ったらその道に行くことは可能です。ある時期に集中して習得するチャンスを紹介することもできます。

―――一人前になるにはどれくらい時間がかかりますか?

佐藤:こればかりは個人の成⾧速度にも大きく依存します。読影もそうだと思いますが人によって習得にかかる時間はかなり異なります。肝細胞癌に対するTACEであれば、指導医のもとで15例程度経験すれば、簡単な症例なら一人でもできるようになるでしょう。CVポートに関しては5例ぐらいですか。ただそれで一人前といえるかというと疑問です。色々な手技を覚えて、薬剤やデバイスにも詳しくなって、適応を適切に判断できるようにならなくてはいけません。怖い思いもできれば避けたいものですが、それでも怖い思いをしてない人は半人前だと思います。と考えると、2、3年ぐらい、コンスタントにアンギオに入る期間があれば一応一人前といってもいいかもしれません。IVR専門医の受験資格ということで言うと、もっと年数がかかります。

3、 東大のIVR教育

―――東大ではどのようなプロセスを経てIVRを習得するのでしょうか?

佐藤:IVRはやはり、教科書を読むだけではだめで、患者さんで実際に経験して積み重ねながら習得する部分が大きい割合を占めます。先輩と一緒に手技に入れてもらい、経験者から教えてもらうのが、やはり強いですね。そういう意味では外科と似ていると思います。

柴田:それでも自施設では体験できない珍しい症例は、教科書、勉強会やIVR学会で知見を得ます。IVR学会でも、研修医や若手向けのセミナーやハンズオンはあります。

久保:あと、IVRカンファで1週間分の症例をレビューするので、自分が入っていない手技もそこで共有することはできますね。

毎週水曜日のお昼にMRI 室で行われるIVR カンファ。1 週間に診療した症例をまとめて共有する。

佐藤:今年はまだできていないですけど、中井町(神奈川県)にあるテルモの施設にみんなで声をかけて、実習しに行ったことがあります。IVRで研究や発展的なことをしようと思ったら、やはり企業の協力が不可欠です。なんせお金がかかりますから。テルモの研究センターだと、自社製品であれば豚の実験、実習などやらせていただけたりします。

佐藤次郎先生が企画してくださった、テルモ(株)の研究センターでの実習風景。

―――ちなみに、器具はどれくらいお金がかかるのでしょうか?

柴田:シースや診断用のカテーテルは安いですが、血管の塞栓に使うコイルでは1本約7万円から14万円くらいしています。

―――へえーー!!

佐藤:ただのカテーテルなら数千円で済みますけど、そこから非常に細い管に入れるマイクロカテーテルになると、1本2~3万円です。場合によっては企業と共同研究契約を結んで提供してもらうこともありますね。

―――動物自体もかかりますよね。イノベーション棟でやっている豚の実験なんかは、豚1 頭の値段だけで100万円と聞いたことがあります。

佐藤:さらに麻酔をかけてもらう獣医さんの日当や、処分費もかかりますし……大変です。エコーガイドのシミュレーターなら、院内にシミュレーターがありますね、CV穿刺練習用のマネキンです。

久保:総合研修センターが持っているやつですよね。

―――やはり被曝することもありますか?

佐藤:放射線科医は被曝に対する意識も高く、手技による被曝は少ないですし、放射線障害が起きるようなこともはもちろんないですね。

柴田:被曝はなるべく防護しますが、少しはあります。でも少ないです。最近の話題としては水晶体での制限が厳しくなった(年間150ミリシーベルトが、原則20ミリシーベルトに低下した)ので、IVRでも防護が大切な時代です。


後編に続きます。