IVRチームインタビュー【後編】

投稿者: 前田恵理子 / 投稿日: 2020年12月04日
血管造影やCT ガイド下生検を担うinterventional radiology (IVR)。放射線部副部⾧の佐藤次郎講師、放射線科助教の柴田英介先生、助教の久保貴俊先生によるインタビューの後編です。

4、IVR上達のコツ

―――IVRが上達するコツはあるのでしょうか?これはお一人ずつ教えて頂きたいです。

佐藤:正直なところ個人のセンスによるところもありますが、まずはちゃんと予習をすること。患者さんの血管解剖、穿刺経路など、画像をよく見てイメージトレーニングをしておきます。知らない手技であれば、なおさらきちんと予習することが大事です。あとは手技に参加するときには積極性をもって参加して欲しい。打てば響くほうがよいですね。上級医からいろいろ吸収するんだという、貪欲な姿勢も欠かせません。

放射線部副部長の佐藤次郎講師

柴田:同じですが、知識をつけること、予習すること。その上で、能動的に参加すること。うまくいかなかった時にどうするか、常に考えることも大事です。このことを繰り返し考えることで、様々な対策方法の選択肢を議論できるようになります。その際、きちんと文献に当たって、論文ベースで選択肢を持つことも大切です。予習をしても一度は手技に入ってみないとわからないこともかなり多いですから、初心者は入ってみないと予習のしようがない面もあります。

一同:(うなずく)。

久保:どこまでうまくできて、どこからうまくできないのか、そのラインをしっかり把握することが大切だと思っています。手技の前には、安全性のリスクをちゃんと把握する。できないことをできると言わないこと。言い出しにくいからと言って、安易にやったことありますとか、経験したことありますとか、言わない。できないことは正直にできないということは、とても重要です。

佐藤:復習も大事ですね。やっている時にうまくいかなかったこと、想定していなかったこと。そういうわからなかったポイントを覚えておいて、上の先生に聞くことですね。

久保:あと、忘れがちですけれど、終わった後に患者さんがどうなったのかをフォローしておくことが大事です。カルテの経過を追うだけでなく、場合によっては患者さんのところに直接行く。読影と違って、生身の患者さんに向き合うわけですから、アドバンスな領域ほど、患者さんとの協力関係、信頼関係は大事になってきます。

佐藤:そうですね。難しい症例ほど、事前にしっかり挨拶しに行きます。

久保:何と言っても患者との関係性、信頼関係でしょね。

―――沢山のアドバイスありがとうございます。これは医局員の皆さんに是非読んでほしい内容ですね。ちなみに、IVRは何歳くらいまで新たに習得することが出来ますか?

久保:そりゃもう若いうちに!老眼になるとやる気がしないと聞きます。やめる理由は、「見えない」「腰が痛い(プロテクターが重い)」「夜間呼ばれるのが辛い」だと聞いています。

5、IVRの向き不向き

―――向き不向きはありますか?どんな人がIVRに向いていますか?

佐藤:はじめから惹かれない人でも毛嫌いしないほうが良いと思います。私は今IVRのチーフですが、昔は読影のほうが好きで、こんなにIVRが好きではなかったんです。それが、赤羽正章先生(元放射線部副部⾧、現・国際医療福祉大学放射線科教授)など先輩方からいろいろな手技を任されるようになり本格的にやるようになってみたら、すっかりのめり込んでしまいました。やっていると面白くなることもありますから、特に若いうちは色々経験してください。奥が深い世界ですよ。

柴田:私は逆に向き不向きはあると思っていますが、手技の達成自体は皆さん努力すればできます。造影用の普通の静脈ルートとるのも、うまい人下手な人がいて、その違いと同じような感じだと思っています。

助教の柴田英介先生

―――不向きな人もいますか?

久保:患者さんと関わらずに手技を行うことができない領域ですので、患者さんと絶対関わりたくない人には向いていないです。

柴田:常にぼそぼそとしか話さない人とか、会話がうまく成り立たない人とか(笑)。ほとんどのIVRは、患者さんがawakeの状態ですので、コミュニケ―ションが取れないのは困ります。

6、IVRの研究

―――IVRのリサーチについて教えてください。

佐藤:臨床研究、単施設後ろ向きが基本になりますね。前向き多施設もできないこともないですが。東大とがんセンターのレトロ(後ろ向き研究)で久保先生が学位取られていましたね。大倉直樹先生(現・国際医療福祉大三田病院)も、門脈塞栓症例のIVRネタでした。

久保:はい。私はがんセンターに国内留学していたので。

佐藤:西日本中心にIVR基礎ラボを持つところも増えていますが、東大では基礎研究はほとんどやっていません。あとは透視機器開発、カテ開発、役立つアプリケーションやAR(拡張現実;ポケモンGOのように実在する風景に仮想的な視覚情報を重ねて表示させる技術)と言った方向性もあります。

―――柴田先生は3Dプリンターで動脈瘤の研究してましたよね?

柴田:はい。3Dプリンターは材料費などお金がかかりますので、研究費が大切です。

7、IVR留学について

―――話が出たところで、IVR留学について教えてください。

久保:希望があれば、道はあります。私は国立がん研究センター中央病院に留学していましたが、私を皮切りにその後毎年、誰かしらが一人ずつ派遣されています。IVRは施設によって相当違うんです。

―――東大とがんセンターとの違いは何でしょうか?

久保:がんセンターは日本で一番症例数が多いIVRセンターです。東大や一般病院と違って、がん以外の病気がないので、例えば脳神経外科や循環器内科はないです。その分、心嚢ドレナージから腎瘻の穿刺まで、各科に頼らずやらなくてはいけないので、1日30ー40件やっています。IVR-CTもあります。

助教の久保貴俊先生

―――すごいですね。

久保:でも、東大が少ないのでは決してないのです。がんセンターが特殊なだけなんです。逆にがんセンターでなくて東大で沢山経験できるのは、外傷、産科、肝移植関連IVRなどですね。IVRは施設の特色によってできることが決まります。例えば帝京大学医学部附属病院(板橋区)は三次救急に特化したIVRといった具合です。TACE、CVポート、CTガイド下生検あたりはどこでもやっているでしょうけど、その先はかなり施設の特色が出ますね。

―――海外留学はどうでしょうか?

柴田:私は2017年から2019年までドイツのハンブルクに留学していました。海外は同じ手技でも考え方や道具も違うことが面白かったです。この辺りは事前に論文で知ることはできません。例えばTACEひとつ取っても、日本はリピオドールと抗がん剤を混ぜて注入しますが、あちらは球状塞栓物質(ビーズ)と混ぜることが多いです。また、スーパーセレクティブに特定の血管を詰める(細い血管まで選択して血管を塞栓する)という概念がなく、比較的太い血管から塞栓していました。

―――確かにああいう細かい芸当は日本人の国民性かも。

柴田:あとやっている手技そのものが違います。経皮経肝門脈穿刺(TIPS)は、日本は認可自体されていないですが、欧米では何種類もステントがあったりします。まず、IVRに使う道具の開発拠点がヨーロッパなので、欧州には企業で組んでやる治験が多いです。ヨーロッパは、ECマークがもらえれば、一度に多くの国で使えることになります。これは北米にさえない強みです。マーケットもアメリカより大きいですし。そういう意味でヨーロッパは圧倒的に開発拠点が多いんです。ドイツは販売経路が特殊で、日本なんかだと病院単位で業者と契約しますが、ドイツでは大学病院が地域を代表して企業と交渉するので、圧倒的に安くて良いものが手に入ります。ほかにも、EU単位の科研費自体の採用枠が多いですし、日本よりいろいろな研究の窓口があります。

―――さすが合理的なドイツ人らしい仕組みになっているんですね。

柴田:はい、あと、個人的には、留学中で家族との時間が沢山とれたこともよかったことですね(笑)。あの頃はコロナもなかったし。

8、IVRの未来

―――東大IVRチームのモットーはありますか?

佐藤:モットーらしきものを決めているわけではないですが、あえて言うなら、「お役に立てるならやってみる」、ですね。依頼されたらできるだけ断らない。だいたい、皆さん困って依頼してくるので。なんとかしてあげたいですね。安全にトライできる余地があるならやってみる。

久保:やっぱりIVRってマンパワーがあればそれだけいろいろなことができるので、多くの方が入局して、IVRを志向して頂けたら頂けるほど、それだけチャンスが広がります。

―――IVRのこれからはどうですか?

久保:RFAやクライオセラピー(Cryotherapy、クライオアブレーション、凍結療法)は、RFAなら肝腫瘍、クライオなら小径腎癌にしか現在は保険適応がありませんが、今後適応が広がることが見込まれており、将来性のある領域です。

(註:マイクロ波凝固療法とラジオ波焼灼療法はどちらも電磁波による局所療法ですが、波長が全然違うので、焼灼特性も違う、別の治療です。なお現在のマイクロ波凝固療法は90年代の成績不良を反省して改良された第二世代と呼ばれるものが出始めています。)

佐藤:世界的にはすごく拡大していますね。肺癌なんかも盛んです。クライオってRFAと違って痛くない、かつ痛みを取る作用があります。すると、これまで培ってCTガイド下生検の技術を生かすことができます。

久保:血管内塞栓などとも組み合わせることもできます。

柴田:緩和として行う、CVポート、疼痛を取る手技、上大静脈・下大静脈の閉塞症候群に対するステントなんかも施設によってはかなり盛んです。有痛性の腫瘍の放射線治療も、穿刺の技術と組み合わせて幅を広げることもできます。硬膜外ポート留置もできますし、とにかく我々がどこでも刺して治療できることのポテンシャルはすごいです。

久保:今話題の光免疫治療にもIVRの技術が使える可能性はありますし、免疫チェックポイント阻害薬などとRFAやTACEを合わせるcombination therapyなどは注目されてきています。IVRで培った繊細な技術を色々な領域に応用できるのが我々の強みです。

佐藤:血管系(vascular)IVRと非血管系(non-vascular)IVRの両方ができて、塞栓、血管拡張・形成、穿刺が全部できる。

久保:実際、vascularとnon-vascularの垣根はなくなってきていますからね。EVAR(腹部大動脈ステント)を入れたあとにエンドリーク塞栓するとか、融合してきています。

佐藤:最近注目されているのはリンパ管のIVRで、乳び胸、難治性の乳びろうに治療の光が見えてきました。リンパ節さえあれば、超音波ガイド下に穿刺できます。

久保:他施設からFontan術後のリンパ瘻や、鋳型状気管支などの報告もあがってきています。

柴田:放射線科のIVRは、自分で診断をつけて、自分で治療に持っていける楽しさがあります。ぜひ皆さんも挑戦してみてください。

―――本日はお忙しい中、大変充実したお話をありがとうございました。

取材を終えて、左から柴田先生、佐藤先生、久保先生。