2020年度下半期論文ハイライトpart1

投稿者: 前田恵理子 / 投稿日: 2020年12月26日
2020年10‐12月に東大放射線科の医局員が筆頭著者となり、アクセプトされた論文からハイライトをご紹介いたします。第1弾は、雨宮史織先生、黒川遼先生に、最新の論文の内容や、若手の先生方へのメッセージ、今後の抱負などを語っていただきました。

雨宮史織先生(東大放射線科 特任講師)

雨宮史織先生

Origin of the Time Lag Phenomenon and the Global Signal in Resting-State fMRI. Amemiya S, Takao H, Abe O. Front Neurosci. 2020 Oct 29;14:596084. doi: 10.3389/fnins.2020.596084.

内容紹介

fMRIの技術的問題点を解決し、脳の大域的情報動態解析を可能とすることを目指しています。これを実現するには計測されるfMRI信号の時間差から脳神経活動の時間差を分離する必要がありますが、fMRIが間接的計測法であるため一筋縄にはいかず、信号成分の由来を検討する研究を重ねながら進めています。本報告では、ヒト安静時fMRIにおける全脳広汎性の信号とresting state networksと呼ばれる大域的ネットワークのそれぞれの信号の成因と信号時間差の由来調べています。実験1ではhuman connectome projectという大規模公開データに時間的独立成分分析を使用することで、複数の広汎性信号の分離を行い安静時fMRI信号の特徴を調べました。実験2では脳の広範囲の神経細胞を同時刺激するために広域視覚刺激装置を作成し、信号時間差を計測しました。また、同一被検者から安静時fMRIデータも取得し、頭蓋外動脈信号と広汎性信号の関係も調べました。これらのデータを統合的に比較検証し、信号時間差の時空間パターンが信号由来が①刺激誘発性神経活動、②自発性神経活動、③その他の生理現象のいずれであっても高度に一致することを示し、信号時間差が血行動態応答関数の違いを表していることを明らかにすることが出来ました。これらの結果から、神経活動の情報動態解析をする上で同計測で得られる血行動態応答関数の時間差を考慮する必要があること、全脳広汎性信号が、頭蓋内外広域でほぼ同期した生理的な血流・血圧変化を反映すると考えられることを示しました。

ひとこと

研究は大変楽しいものです。世界が広がります。科学という枠組みの中では何をしても自由です。手助けはしますので、やってみたいことに挑戦してください。

いつも実験に協力していただいている医局の先輩・後輩方に感謝しております。

黒川遼先生(東大放射線科 特任助教)

黒川先生は、この3ヶ月の間に2本の論文をpublishされました。

2020神経放射線ワークショップ5位 黒川先生

Imatinib-induced pancreatic hypertrophy in patients with gastrointestinal stromal tumor: Association with overall survival. Kurokawa R, Hagiwara A, Amemiya S, Gonoi W, Fujita N, Kurokawa M, Yamaguchi H, Nakai Y, Ota Y, Baba A, Kawahara T, Abe O. Pancreatology. 2020 Dec 1:S1424-3903(20)30847-4. doi: 10.1016/j.pan.2020.11.014.

内容紹介

GIST(消化管間質腫瘍)に対してチロシンキナーゼ阻害薬であるイマチニブを使用している患者では、投与前から22%以上の膵腫大が認められた群では有意に生命予後不良であることを示した論文です。

スニチニブ関連膵萎縮と生命予後との関連を示したShinagareらの論文(Radiology. 2016 Oct;281(1):140-9. doi: 10.1148/radiol.2016152547.)より着想を得て、ではイマチニブではどうなるか…ということで計測してみたら、なんと萎縮よりも高頻度で腫大が生じていることが分かりました。結局はその後に膵萎縮が生じるので、reperfusion injuryによる、細胞死前の一過性腫大を見ているのではないかと考えています。

ひとこと

全例全CTで1スライスごとに膵臓のROIを囲むという作業は非常に骨の折れるものでした。ご協力・ご指導いただいた先生方に感謝いたします。

免疫チェックポイント阻害薬や分子標的治療薬については日進月歩で開発と臨床応用が進んでおり、関連した人体の変化にcatch upし続けていくことの重要性を感じています。

Forward-projected Model-based Iterative Reconstruction SoluTion in Temporal Bone Computed Tomography: A Comparison Study of All Reconstruction Modes. Kurokawa R, Hagiwara A, Nakaya M, Maeda E, Yamaguchi H, Gonoi W, Sato J, Nakata K, Ino K, Ota Y, Kurokawa M, Baba A, Nyunoya K, Usui Y, Tanishima T, Tsushima S, Torigoe R, Suyama TQ, Abe O. J Comput Assist Tomogr. 2020 Nov 12. doi: 10.1097/RCT.0000000000001119.

内容紹介

Canon製モデルベース逐次近似再構成法であるFIRSTには部位ごとに最適化するための9つのモードがあるのですが、側頭骨CTにおける最適なモードは確立していませんでした。

本研究では、正常な側頭骨における微細構造の主観的な見やすさと客観的指標(CNR、NPS、MTF)を全モード間で比較し、CARDIAC SHARP, BONE, LUNGモードで最も見やすいことや、視覚的評価は空間分解能の高さ、およびノイズの【強さ】とよく相関していたことが示されました。ノイズ低減をするほど微細構造が観察しづらくなる、という逐次近似再構成法の特徴が全モード比較をすることで改めて確認できました。

ひとこと

業務時間外に時間のかかるファントム撮影に付き合ってくださった東大病院放射線技師の中田様、井野様に感謝いたします。

私は分からないことを理解するための最短の道のひとつは論文を書くことだと考えています。そうして得た知識を他の先生方にもシェアして一緒に勉強していくことは使命であり喜びです。

側頭骨CT x 逐次近似再構成法の研究については、戌亥先生、仲谷先生らと新たな取り組みを始めています。


雨宮先生、黒川先生、共著者の先生方、掲載おめでとうございます!