
パネリスト紹介
高尾英正 先生(2000年卒) 東京大学医学附属病院放射線科准教授 主な研究領域:脳画像解析・機械学習・IVR
渡谷岳行 先生(2001年卒) 東京大学医学附属病院放射線科准教授 教育・安全担当副科長 主な研究領域:医用画像AI
花岡昇平 先生(2002年卒) 東京大学医学附属病院放射線科専任講師 主な研究領域:医用画像処理、深層学習
八坂耕一郎 先生(2008年卒) 東京大学医学附属病院放射線科助教 主な研究領域:体幹部画像診断・深層学習・Radiomics
はじめに
花岡:本日は皆さんお集まりいただきありがとうございます。モデレーターの花岡です。今日は医局の若手向けインタビューということで、若手医局員の皆さんが、「どうやってこの世界に飛び込めばいいのか」「どんな人材と一緒にやっていきたいか」といったことを中心にお話し頂ければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。なお、今回は写真撮影は事前に済ませ、インタビューはオンラインで行っております。
前田:医局広報の前田恵理子です。私はAIは全く門外漢で、モデレーターできるだけの知識がないので、今日は花岡先生にモデレーターをお願いして書記・編集をしつつ、素人にわかりにくかった表現を突っ込む役をします。AIという領域は、脳神経や消化器などの画像診断領域と同じように、ひとことでAIと言ってもいろいろな領域があるものなのでしょうか?
花岡:幸いこのメンバーは、専門がほとんどかぶっていないのですが、AI研究の中にも専門分化はあります。皆さん、ご自分の専門領域も解説しつつ、お話し頂ければ幸いです。まず、お一人お一人からそれぞれのAIとのかかわりをお話しいただいた後、座談会という構成にしたいと思います。
八坂耕一郎先生

AIとの出会い
私は2016年に医科研に異動したのですが、その時の医科研放射線科の部長であった桐生茂先生(現・国際医療福祉大学放射線科教授)が「これからはAIブームが来るぞ来るぞ」ってよくおっしゃっていたんですね。それで、AIってどんなものだろうと興味を持ち始めました。それから、プログラミングや深層学習に関する教科書やオンラインのリソースを参考にしながら、勉強を始めました。当時はまだ画像診断のAI利用の論文はほとんどなかったので、顔認識や、MNIST(手書き数字の画像データベース)などのネット上のリソースを引っ張ってきて自分用にアレンジしたりということをやって、深層学習を習得していきました。
あと、当時はGPU (graphics processing unit) を搭載したパソコンが手元にありませんでした。GPUを搭載したパソコンだと深層学習を高速に行うことができることが知られていましたので、桐生先生にご相談しました。花岡先生にも色々ご指南いただいて、「ゲーミング用のパソコンならGPUを搭載しているのでいけるのではないか」とアドバイス頂き、ゲーミングパソコンを購入して、深層学習用のプログラムを本格的に走らせ始めたというところですね。
一番最初にやったのが、深層学習による肝腫瘤のダイナミックCTでの鑑別です。本郷に読影のお手伝いに来るときや、土日などを利用してデータを集めました。細かい鑑別診断ができると良いとは思いましたが、あまり現実的ではなかったので、research questionとして肝腫瘤を5つカテゴリに分類できるかということをやりました。最初はうまくいくかどうか半信半疑だったのですが、いい成績が出てきたり、実際自分で作ったプログラムに教科書に載っている画像を入力してみると、正しい診断が出てきたりするので「おおーーっ!」とそのときは結構衝撃を受けましたね。で、その衝撃をそのまま論文化したのが私の深層学習に関する最初の論文 (Yasaka, et al. Radiology 2018;286(3):887) です。
深層学習領域での立ち位置
私は体幹部領域の画像を使って、鑑別診断やステージングといった領域をやっていこうと思っています。
深層学習も、ResNetやEfficientNetなど、新しいネットワークが出てきたり、GANなど様々な新しい技術が出てきましたが、その辺は適宜採用したりしなかったりで、ごく最近のテクニックはついていけていないところもありますが、自分で実装できる範囲の技術は取り入れながらやっていっています。
花岡昇平先生

パソコンとの出会い
自分がそもそもコンピューターを使うようになったきっかけは、小学生の時に親が家にパソコンを置いたことに始まります。あの頃はコンピューターゲームもまともなものがあまりなくて、ファミコンも出たか出なかったかの時代だったので、パソコンで遊ぼうと思ったら自分でプログラミングするしかなかったんです。で、シューティングゲームを作って、「敵の玉が曲がるといいなぁ」と思って、「曲げるためにはどうしたらいいか」と考えて三角関数を学んだ(というか本に書いてあるのをそのまま写した)のが小学4年の頃で、というなれそめでした。
こんなふうに昔からコンピューターでは色々使っていましたが、医者になって、放射線科医を選びました。大きな転機になったのは、放射線科医になって割とすぐの頃、乳腺超音波の講習でたまたま、まだできる直前だった「コンピュータ画像診断学・予防医学寄付講座」の林直人先生に出会ったことでした。林先生が、その寄付講座について「これからこういうプロジェクトを始めるけど一緒にやらない?」と誘って下さったんですね。で、「行きます」と答えて、行ったら増谷佳孝先生(現・広島市立大学情報科学研究科教授)もいて。増谷先生は、以前東大放射線科の講師をされていた、工学部出の先生ですけど。で、何か話してと言われたので、手遊びに作っていた、肺塞栓のCTで、肺の動脈相を2回撮ってサブトラクションして、肺動脈と気管支動脈を手動で描出し分けるというのをお見せしたのが、この世界に入るきっかけでした。
これからAIに入る方へ
我々医者はデータを持っているので、どういうデータがあって、どんな結果を出したいかというビジョンを持って頂くと、うちのイメージラボの仲間には多くの工学系研究者がいるので、うまく協同できるかなと思います。
よく、学問と関係ない、ちょっとした前処理や後処理でつっかかって1か月消費する、なんてことがありますが、そういうことをなくすには、みんなでワイワイやるのは悪くないのではと思います。放射線科の先生はなぜか、自分で頑張る方向に行く先生が多いのですが、和気あいあい、とやるのもおすすめですよ。
渡谷岳行先生

バックグラウンド
僕は実は子供の頃からプログラミングしていたガチ勢ではなくて。AI以前の話として、プログラミングとかコンピュータに触りだしたのも、実は大学に入ってからです。とあるバイオ系の研究室に出入りするようになって、そこでやらせてもらったのが「電子顕微鏡を使ったタンパクの構造解析」。電子顕微鏡で撮ったタンパクの写真を、切り出して、画像処理して、フーリエベッセル変換して、3Dに再構築するっていう……。バイオロジーやりたかったのに、いきなりC(言語)書けるようになれとか、フォートラン書けるようになれとか、それに必死こいてついていこうとしたところが始まりですね。で、絵が出てくれば楽しい、そんな感覚が、今の放射線科の仕事にもつながっているのかなと思います。
その後臨床医になって、プログラミングに関しては「中の下」のような、サンデープログラマーのようなことをやっていたのですが、AIに触れだしたのは2017年くらいで、しかも放射線と全然関係なくて、たまたま見ていたネットニュースか何かで「動物の画像をGANで作りました」という記事を読んで「へぇー」と思ったのが、個人的にAIと触れ始めたきっかけでした。多分時期的に、DC-GAN(※)だった気がしますね。「これってCTやMRIでやったらどうなるんだろう?」とは思ったのですが、その時は手出しするには至りませんでした。 (※GAN: generative adversarial networksの略で、画像を生成するAIと画像の真贋を見破るAIを同時に競合させながら学習することで本物に近い画像を生成できるようにする仕組み)
その後、2018年ごろに日本医学放射線学会が「画像診断ナショナルデータベース」を始めて、東大にもお声がかかったので、阿部修教授に「君やらないか?」とお誘い頂いて。そこでAI開発や画像のデータベース収集に携わることになったのが、AIについてはもう一つの大きなきっかけになりました。
その頃には、もともとAIに興味を持つきっかけになったGANの技術も結構進歩していたので、色々な新しい手法を使って頭のMRIやおなかのCTを作ってみたら、ちゃんと512x512マトリクスの、まあまあまともな画像ができるのが楽しかったです。それまでC++やJavaしか書いていなかったプログラミング言語も、こうしたことをやるために、Pythonを勉強しました。2か月くらいかけて、初心者用の本買って勉強して。もっと要領の良い人なら2週間くらいでできるんでしょうけど、仕事しながら一つの言語を書けるようになるまで習得するには僕にはそれくらいかかりました。
現在のAIとのかかわり
僕は2本立てでやっていて、一つはナショナルデータベースの作成ということで、多施設共同研究という形で、色々な大学や企業と協働する、というものです。それはテーマを自分で決めるというよりは、テーマはみんなで出し合って、自分はそれに対してデータを整理したり、研究に必要な小さなツールを開発したり、データセットからゴミを除くような小さなAIのツールセットを作ったりと、そんなことをやっています。研究にはこんな、お手伝いや「便利屋さん」のような仕事も必要なんですよ。
自分の研究はあまり時間がないのですが、AIとのなれそめからして、分類や検出を診断して診断能をどうこう、というのも、もちろん大事なのですが、興味としては、やはりGANから始まっていますので、画像の生成や変換、たとえば今まで存在しなかった絵を作ります、というような方向性に興味があります。
高尾英正先生

プログラミングとの出会いと発展
僕はこの4人の中では深層学習への関りが一番浅いですが、宜しくお願いします。 僕も花岡先生と同じで、ファミコン世代だけどファミコン買ってもらえなくって、代わりにゲームが出来そうなパソコンを買ってもらったらゲームができなかったんです。それで、初めてプログラミングをしたのが小学校3年生の時で、結局ゲームはほとんどすることなくプログラミングしていたと思います。大学生になってからはプログラミングのバイトをしたりしていました。
で、大学を卒業して放射線科に入ったときに、何かできないかなぁと思ってRadiology誌を見ていた時に、シカゴ大学で胸部単純写真の経時差分画像をやっていたのを読んだんですね。当時、CTの画像もルーティンで2mmスライスのものを出す施設も出てきたので、CTの差分画像をやってみようと思ったのが、放射線科でプログラミングする最初のきっかけだったと思います。その後、脳画像解析やIVRなどの領域を研究してきて、IVRでは3Dプリンターなんかも使ってきましたが、プログラミングできないとできないことが多いので、道具として使っていたのが大きかったです。
深層学習はそれまでもお手伝いする機会もあったのですが、割と深く勉強し始めたのが去年くらいから。それも他の先生のお手伝いで始めたところがあって、ツールを作ったり、モデルを改変したりといった用途で使っていました。というのは、学生の頃(深層学習の前身)ニューラルネットワークを使った時にイマイチだった思い出があったので、本当に使えるのかなと思っていたんですね。その時もそうでしたが、プログラミングは何かやりたいことがあるときに、一つの道具として使えればいいかなと思っています。若手の皆さんも、何かやりたいことがあったときに、「こういう手法があればいいな」と思うことを探してあれば、それを使ってみるというスタンスでやっていければと思っています。
若手の方へ
やりたいことさえしっかりあれば、それに対して勉強すればいいし、東大には知識を持っている人も沢山います。とりあえず、どういったことをやりたいかという目標を明確に持っている方と、一緒にやっていきたいなと思っています。
(次回につづく)