2021年度上半期論文ハイライトpart 5

投稿者: 前田恵理子 / 投稿日: 2021年10月13日
2021年7-9月に東大放射線科の医局員が筆頭著者となり、アクセプトされた論文からハイライトをご紹介いたします。第2弾は、AI特集です。初めての論文が掲載された中村優太先生、AIアルゴリズム開発部門座談会でもご活躍中で深層学習に関する初論文が掲載された柴田寿一博士、そして毎回大活躍の雨宮史織先生による2論文を、まとめてご紹介します。

中村優太 先生

東大放射線科 大学院生 (医師7年目,放射線科医5年目)

Nakamura Y, Hanaoka S, Nomura Y, Nakao T, Miki S, Watadani T, Yoshikawa T, Hayashi N, Abe O. Automatic detection of actionable radiology reports using bidirectional encoder representations from transformers. BMC Med Inform Decis Mak. 2021 Sep 11;21(1):262. doi: 10.1186/s12911-021-01623-6.

BMC Medical Informatics and Decision Making誌に掲載された中村優太先生の論文

論文紹介

放射線科医がせっかく『予想外の重大な異常所見がある』と警告してもその読影レポート (以下、要注意レポート) が読まれずに異常が放置されることがあり、社会問題化しています。この研究では,そうした要注意レポートを深層学習によって自動検出することを目指しました。

先行研究ではデータの質に限界があり、研究者が後から文面だけ見てラベル付けしたため現場の臨床的な判断が活きていないものや、対象疾患が少ないものがほとんどでした。 ちょうど東大病院放射線科では、2019年から読影者がレポートに『要注意』ラベルを付与する運用をはじめており、このデータをそのまま使えば現場の読影者の複雑な判断をAIに学習させられると考えました。

実際にBERTとよばれる深層学習モデルを学習させたところ、他手法よりも高成績で要注意レポートを検出できたほか、要注意レポート中に『要精査』『経過観察してください』などの明示的な表現がなくても文脈や疾患名をたよりに検出可能なことが示唆されました。

ひとこと

筆頭著者としての最初の論文でしたが,苦難の時期が続き,再投稿や再実験を繰り返すうちに1年半掛かってしまいました。指導教員の先生方の粘り強いご指導のもと,何とか形にすることができました。心から御礼申し上げます。

柴田寿一 博士

東大病院 コンピュータ画像診断学/予防医学寄付講座 現職2年目

Shibata H, Hanaoka S, Nomura Y, Nakao T, Sato I, Sato D, Hayashi N, Abe O. Versatile anomaly detection method for medical images with semi-supervised flow-based generative models. Int J Comput Assist Radiol Surg. 2021 Aug 25. doi: 10.1007/s11548-021-02480-4.

柴田寿一特任研究員

論文紹介

医用画像に病変が含まれる事後確率をディープラーニングの手法(フローベース深層生成モデル)で自動算出するもの(異常検知手法)です。提案手法は通常のディープラーニングの手法とは異なり、正解データ(ラベル)の入力が一部の画像のみで十分(準教師あり学習)です。これにより提案手法はラベル入力に要する作業負荷の緩和に貢献します。

ひとこと

私がディープラーニングの学習を始めてから約2年で初めて採択された国際雑誌論文になります。インパクトファクターのさらに高い雑誌への採択を指向しつつ、これからも論文を量産していきます。

雨宮史織先生

東大放射線科 講師

Amemiya S, Takao H, Kato S, Yamashita H, Sakamoto N, Abe O. Feature-fusion improves MRI single-shot deep learning detection of small brain metastases. J Neuroimaging. 2021 Aug 13. doi: 10.1111/jon.12916.

J Neuroimaging誌の掲載された雨宮史織先生の論文

大学院生の先生方と一緒に、高尾先生のご協力のもと行っている深層学習による脳転移自動検出器作成の3作目です。single-shot multi-box detectorという物体検出アルゴリズムを使用し、スケールの小さい物体検出層からの特徴量を融合させるように、モデル構造を改変することで、MRIデータでも小病変の検出感度を高めることができました。

Amemiya S, Watanabe Y, Takei N, Ueyama T, Miyawaki S, Koizumi S, Kato S, Takao H, Abe O, Saito N. Arterial Transit Time-Based Multidelay Combination Strategy Improves Arterial Spin Labeling Cerebral Blood Flow Measurement Accuracy in Severe Steno-Occlusive Diseases. J Magn Reson Imaging. 2021 Jul 15. doi: 10.1002/jmri.27823.

J Magn Reson Imaging誌に掲載された雨宮史織先生の論文のキー画像

動脈スピンラベリング(ASL)による脳灌流画像法は5分程度の検査で、被ばくもなく脳血流量を計測出来ます。被ばくに加え、計測のみで30分かかる従来検査(SPECT)と比較すると患者さん・検査者の負担は大幅に軽減します。しかしながらASLの精度は、原理上、動脈血流の到達時間に大きく依存し、脳血管狭窄例での正確な計測を困難にしています。この問題を解決するために、遅延時間の異なる画像から到達時間を計測し、補正を行うmulti-delay法が開発されました。しかしこれまでの定量方法では、高度狭窄例では十分に対応出来ないことも知られていました。そこで今回の実験では、遅延時間の異なるデータから血流量を推計する方法を工夫し、動脈到達時間の情報に基づいてデータを組み合わせることで、高度到達遅延がある疾患においても、血流評価がより正確に出来ることを示しました。患者さんをはじめ、データ収集に多くの方のご協力を頂いています。ありがとうございました。