阿部修教授インタビュー part 1

投稿者: 久保貴俊 / 投稿日: 2021年01月14日
東大放射線科教授を務められている阿部修先生。カンファレンスなどで診断や研究についてお話を伺う機会は多いものの、阿部教授ご自身のご経歴やお考えについて深く伺う機会はそれほど多くはありません。そこで今回、阿部教授にお時間をお取りいただき、若手医局員が気になっていることを直接インタビューさせていただきました。第1弾では阿部教授のご経歴について伺います。
阿部修教授を囲んでインタビューメンバーと(呼吸止めでの撮影!)

阿部修教授(左から2番目)を囲んで、聞き手の金丸訓子(左)、森島康介先生(右から2場目)、久保貴俊先生(右)とともに。インタビュワーのプロフィールは下記の通りです。

久保貴俊先生 ・出身校:ラ・サール高校 東京大学(2011卒) ・放射線科8年目 ・大学時代:バレーボール部 趣味:筋トレ

金丸訓子先生 ・出身校:東京大学(2017年卒) ・放射線科2年目

森島康介先生 ・出身校:市川高校 東京大学(2018年卒) ・放射線科1年目 ・大学時代:バレーボール部 趣味:野球観戦

インタビューは2020年12月8日に教授室にて行われました。

阿部先生のご経歴

――本日はお忙しい中お時間をお取りいただきありがとうございました。今回のインタビューでは阿部先生ご自身のことや医局についてのお考え、放射線科の将来性など幅広くお話を伺えればと思っております。よろしくお願いします。

阿部修先生(以下、阿部):よろしくお願いします。

阿部修教授2021年新春インタビュー

――まず、先生のご経歴について簡単に教えていただけますでしょうか。

阿部:生まれも育ちも東京です。筑波大学附属駒場高校から東京大学理科三類・医学部へ進学し、卒業後に東京大学医学部放射線医学教室に入局しました。

――放射線科への入局のきっかけはなんだったのでしょうか。

阿部:放射線科への入局は大学6年生の頃に決めました。最初は内科に進もうと思っていたのですが、当時の東大のシステムは臓器別内科となっていたので全身が診られないということが少し引っかかっていました。そんな中、放射線科は全身的な画像診断の知見を会得した上で脳神経や体幹部などのエキスパート領域を見つけられると知り、放射線科に進むことを決めました。同期が60人ほど内科に進むことになっており多すぎたことも、内科を避けた理由でしたが(笑)

――確かに全身を診ることができるのは放射線科の魅力の一つですよね。少し話はそれますが、先生がもし今、放射線科以外の道を選ぶことになったとしたら何科を選ばれますか。

阿部:放射線科以外は考えられませんと言いたいところですが、今ありえる選択肢としては精神科ですね。精神科領域はまだまだ画像診断学が確立してない領域なので、臨床・研究ともに面白い領域だと思っています。

――先生のご研究とも関わってくる領域ですね。放射線科に入局されてからのご経歴についても教えていただけますでしょうか。

阿部:入局したあと2年間東大病院で研修を行いました。その後、関東労災病院で2年間研修を積み、卒後5年目で大学院生として東大に戻ってきました。院を卒業後は東大病院でスタッフとして働き続けたのち、2010年に日本大学医学部放射線医学系画像診断学分野の主任教授に異動となりました。日大では6年間勤務し、2016年から現職になっています。

若手の頃の阿部先生

――ありがとうございます。先生は東大・日大というイメージでしたので、関東労災病院にいらっしゃったことは存じ上げませんでした。

阿部:今となっては私が関東労災病院にいたことを知る人は少なくなっていると思います。

阿部先生のご研究

――さて、先生といえば「研究」のイメージが強くありますが、先生のご研究についても簡単に伺ってもよろしいでしょうか。

阿部:大学院での研究テーマは簡単に言うと「MRSのdiffusionを見る」というものです。当時の放射線科では誰も教えてくれる人がいなかったので、大久保敏之先生(現東京逓信病院放射線科部長)に脳神経外科の斉藤延人先生(現脳神経外科教授)の研究室をご紹介いただき、研究を行っていました。実際にやっていたのは、ラットの頸動脈からナイロン糸を入れて中大脳動脈梗塞モデルを作り、7テスラの動物専用MRIで撮像を行なうという手法です。最終的に大学院の学位論文はJournal of Cerebral Blood Flow & Metabolismという雑誌に掲載されました(Abe O, Okubo T, Hayashi N, Saito N, Iriguchi N, Shirouzu I, Kojima Y, Masumoto T, Ohtomo K, Sasaki Y. Temporal changes of the apparent diffusion coefficients of water and metabolites in rats with hemispheric infarction: experimental study of transhemispheric diaschisis in the contralateral hemisphere at 7 tesla. J Cereb Blood Flow Metab. 2000 Apr;20(4):726-35. doi: 10.1097/00004647-200004000-00010. PMID:10779017.)。

――脳神経外科の研究室に出向いて研究をされていたのですね。先生のご研究は脳神経外科だけでなく精神神経科など他科とコラボレーションされているものも多いイメージがあります。何か他科と共同研究するコツなどはあるのでしょうか。

阿部:コツと言われると難しいです。私の場合、どちらかというと棚ぼたのことが多かったので。例えば精神神経科との共同研究は、当時笠井清登先生(現精神神経科教授)が脳MRIを使ったVoxel-based morphometry(VBM)研究を一緒にする放射線科医を探されていて協力を申し出たことから始まりました。その中で放射線科が研究としてできることを自分で考えて、Diffusion Tensorなどの研究を行ったという流れです。

――機会があった時に逃さないこと、また同じデータセットの中で放射線科として研究できる部分を常に考えることなどが重要ということでしょうか。

阿部:そうですね。他にも、他科の先生に教えを乞うことも重要です。例えば精神神経科との共同研究の中で、Statistical Parametric Mapping(SPM)を開発したところに留学していた先生に直接教えていただいたことで、その後の研究に繋がったという経験もあります。

東大教授にご就任された頃、シンガポールのISMRM(国際磁気共鳴医学会)で講演される阿部先生

――放射線科以外の先生から学ぶことで研究の幅を広げるというのは非常に重要なことだと感じました。ちなみに、先生は現在どのような研究をなさっているのでしょうか。

阿部:今の主な研究は脳内ネットワークの解析です。大雑把に言うと、脳内のある場所と別の場所が何割の確率で繋がっているのかを調べています。それ以外では、大学院生の戌亥先生と一緒にやっているmultidimensional diffusionというmicrostructureが見られる撮像法を使った研究などがあります。

――とても面白そうな研究ですね。そのような最先端の研究を行うにあたって、どのようなところからアイディアを見つけられるのでしょうか。普段から読まれている雑誌などあれば教えていただけますか。

阿部:RadiologyやMagnetic Resonance in Medicine(MRM)、Journal of Magnetic Resonance Imaging(JMRI)などは一通りタイトルに目を通していますね。その中で興味がある研究のみabstractを読み、必要に応じて中身まで読みます。網羅的に読むと言うよりは興味のある領域をコンスタントに追い続けるようにしています。

――興味のある領域を読むだけでも良いと言うのは、これから研究をはじめたいと思っている若手医師でもすぐにでも真似できる方法かと思います。

阿部先生のご趣味

―――話は変わりますが、仕事以外の時間になさっていることはありますか。何か趣味などありますでしょうか。

阿部:学生時代はスキー部に入っていたのでスキーは趣味です。日大時代はスキー部の部長(顧問)を務めていたのでよく行っていましたが、最近は忙しくて全然行けていません。

阿部先生が日大放射線科教授としてスキー部顧問をされていた頃のお写真。一番右側が阿部先生。

――先生のご趣味がスキーだとは存じ上げませんでした。

阿部:スキー以外だとお酒くらいですかね(笑)


Part 2に続きます。