AI開発基盤部門座談会 part 2

投稿者: 前田恵理子 / 投稿日: 2021年07月30日
東大放射線科発のAI研究・臨床応用の基盤プラットフォームである”CIRCUS”。その開発を担ってきた、AI開発基盤部門による座談会の2回目。今回も、若手や新しい研究メンバーに期待すること、研究AIと臨床AIのギャップ、医工連携の勘ドコロなど、見逃せない話題が満載です。是非お楽しみください。
2021年6月10日、東大放射線科およびコンピュータ画像診断学・予防医学寄付講座のAI開発基盤研究部門による座談会を行いました。写真は左から秋山雅哉特任研究員、三木聡一郎特任助教、野村行弘特任講師、竹永智美特任研究員。

(Part 1よりつづく)

CIRCUS開発秘話を聴いて

―――今までのお話しをずっと聴いていただきましたが、感想はありますか?

秋山:知らないことばかりでした。

竹永:もう、話に圧倒されてしまって、感想と言われて我に返った感じです。

野村:たまに昔のことを話すけど、ここまで体系的に語ったの初めてでしたね。

秋山:まず思ったのは、読影というのが何をやっているかという具体的なところがわからないので、そこをまず知りたいということです。僕の場合は他の方と違って医療のバックグラウンドがないので、ミーティングの中で聞いたことから想像するしかない。

三木:そこは、放射線科医が読影しているときに隣に座らせてもらって読影作業を見るのが一番でしょうね。

―――私これから今日読影に入るけど、見に来ますか?1時間くらい隣にいたら、何やってるかある程度分かるんじゃないかしら。もちろん解説もしますよ。

秋山:是非お願いします!

若手研究者に期待すること

三木:新しい技術がどんどん進化してきて、今のWebは、昔個人でホームページ作りました、というレベルでWebページを作っていた時代とは似ても似つかないような作り方をするようになっているんです。CIRCUSをオープンソースでみんなに配るのであれば、あまり古いものを配ってもしょうがなくて、本職のWebエンジニアが見ても恥ずかしくないようなものを作らなくてはいけないと思っていました。そこで僕がまずはWebの勉強をし始めました。

―――三木先生レベルですでにWebの知識があっても、改めて勉強した上で作成したのですね。

三木:昔からある程度のWebサイトは作れましたが、最新のトレンドに追従すべく勉強を始めたのが4-5年前です。特にReactというライブラリについてドキュメント翻訳をしたりエンジニア系の雑誌に解説記事を書かせていただいたりしています。

―――すごいなぁ!

三木:といっても、一人で全部やるのは時間的に無理なので、竹永さん、秋山さんに共同開発をお願いしています。竹永さんがフロントエンド、秋山さんがバックエンドの仕事を担当してくれています。

野村:フロントエンドというのが、サイトの利用者から画面上見える部分の仕事で、ユーザーがボタンをマウスでクリックしたら何かの処理を実行させる、といったものです。最近では、3次元の画像処理をブラウザやスマホの中で処理させることもできます。竹永さんは元々、画像処理の技術に長けているので、病変をペイントで塗った後に、形を整えたり、塗り漏れ・塗り間違いを修正したりするアルゴリズムをCIRCUS DBに実装する部分などをお願いしています。

三木:秋山さんにお願いしているのは、バックエンドです。バックエンドは、データベースにあるデータを処理するなど、裏で動いていて外から見えない部分の仕事になります。

―――フロントエンドとバックエンドが対になっているんですね。

三木:CIRCUSはまだ世界中でそんなに使われているわけではありませんが、これが大きくなってくると、ちょっとした設計の違いでサーバーが重すぎて動かなくなったりします。あと、セキュリティーもますます大事になりますね。

―――バックエンドの仕事を実際にやってみて、難しいことはありますか?

秋山:知らない技術があるときに、ネットを見ても、どれが新しい技術でどれが古い技術なのか、見分けが難しいことがあることでしょうか。サイトの更新日が新しければ新しい技術かと言うと、そうでもなくて……。

AI開発基盤部門の秋山さん

三木:そう、技術の入れ替わりが本当にすごいんですよ。放射線科も細かい知識では日進月歩の世界ですけど、仕事の仕方がガラっと変わるような技術革新は流石にめったに起きませんし。

―――そりゃそうでしょう、人間の体は変わらないんだから、半導体と比べられても(笑)

秋山:新しいものを作るときって、古いものを知っていることが前提で、そこに新しいことを足すので、そのなかで変わらないものって何なのかな?と探すのが大変でもあり、楽しい部分でもあります。

コンピュータ画像診断学/予防医学寄附講座の上司たち

―――コンピュータ画像診断学/予防医学寄附講座の上司である林特任教授、吉川特任准教授に関して何か一言ありませんか。

野村:林先生と吉川先生は、表に出てくることはあまりありませんが、我々が研究しやすいように裏で配慮してくださるので、とても働きやすいです。

三木:割と、理想の上司そのものですよね。

竹永:私は林先生の、「足りないところのサポート」がとてもありがたいと思っていました。野村先生から、「こういう勉強したほうがいいよ」、とふんわり言われては「は~い」と流すような感じだったんですが、林先生がある日、「我々もLinuxの勉強しないといけないよね」と言われて、LPIC(エルピック;Linuxの検定試験)をみんなで受けようという話になりました。そんな風に、大きな方向づけをしてくださっているのが林先生かなと。

野村:私の異動もきっかけの一つでした(2021年7月1日より千葉大学フロンティア医工学センターに異動)。新しいCIRCUSはLinux上で動かすことを前提としているため、開発チームの全員がLinuxの基本を理解していないと困るという事情もあります。

AI開発基盤部門の竹永さん

研究AIと臨床AIに求められるものの違い

三木:CIRCUS CSに実装したソフトウェアは日々臨床でも使われています。コンピュータ画像診断学/予防医学講座のサーバ室に臨床用のサーバを入れており、同講座の検診では肺結節や脳動脈瘤の自動検出ソフトウェアだけでなく、内臓脂肪体積自動計測ソフトウェアが日々利用されています。内臓脂肪体積計測の結果は検診受診者に渡しています。すると、研究だから動けばいいやってわけにはいかなくて、ちゃんと安定して動かしてデータのバックアップも取っていかなくてはいけなくなります。

―――なるほど。

三木:日常臨床で使用するためには、サーバやネットワークの設定、データのバックアップなど運用面での知識も求められます。さらには、病院の電子カルテシステムのIDでログインできるようにするなど、利便性を向上するための追加機能の開発も必要になってきます。

野村:研究レベルであれば、自分の研究室で数十~数百症例で開発して、性能が良ければ論文が受理されるかもしれません。しかし、日々の臨床で使うとなると、数千、数万症例処理しても処理が失敗しない、機械が壊れない、データが消失しないといった安定性が必要になります。前述の内臓脂肪体積測定は年に1-2回程度様々な要因で処理が失敗するケースがあります。一方で、受診者の中には前回の計測結果を受けて内臓脂肪を減らすために努力されて、計測結果を楽しみにしていらっしゃる方がいらっしゃると伺っています。

―――確かに、ダイエット頑張ってきたらすごく気になりますよね。

三木:だから「CAD作りました、動きました」でおしまいではないのが臨床の世界です。一段高い安定性が求められるんですね。

野村:長い目で見ると、性能がずば抜けて良くても不安定なソフトウェアより、性能がほどほどでも長期間安定して使えるソフトウェアの方が良いかもしれません。

医工連携の勘ドコロ

野村:新しいCIRCUSについては、CIRCUS DBについては複数の先生による検証が進んできたので、今後は開発してきた新しいCADをCIRCUS CSに実装して検証できればと思っています。さらには、他施設の方が開発されたソフトウェアを検証することができるようになればと思っています。秋山さん何かありますか?

秋山:やはり、仕事としてやるなら、医療の現場で求められているものを作りたいと思っています。まずは、実際に使う医師がどんなものが欲しいのか、必要なのかということをわかるようになりたいと思います。

野村:秋山さんは医療系出身ではありませんが、実際の読影を見学したり、三木先生をはじめとする先生方から教わりながら医療のことを少しずつでも理解してもらえればと思います。そしてお二人には、自分が開発に携わっているCIRCUSが臨床現場で役に立っているんだという実感を持ってもらい、将来的には医学と工学をつなぐ架け橋となれるような技術者になってもらえればと思います。

―――野村先生、いまはとても忙しいと思うので落ち着いてからでいいですが、医局ブログに是非、「医学と工学の懸け橋になる」とはどういうことなのか、寄稿をお願いしたいです。放射線科医はそういった仕事に関わる方が多い領域ですし、今後どんどん増えるでしょうから。私は2007年から医工連携をずっとやってきて、読影見落としの認知心理実験で学位も頂いたし、東大COIという枠組みで医学部(放射線科と胸部外科)、工学部、キヤノンの3者で共同研究・共同開発もやっています。異分野の人と話をするには、読影や放射線科の研究だけやっていてもダメなんですよね。プログラミングや数学ができる必要性は必ずしもないけど、放射線科医が言いたいことを、異分野の人に伝わる言葉に翻訳する必要があるんです。

野村:そう、お互い知っている言葉が違うんですよね。工学部だと技術を作るところは強いですが、その応用先についてはよく知らないことが少なくありません。

―――でもこれからの時代、異分野から医工連携分野に参入する方が増えると思うんです。北米放射線学会の企業展示(コロナ前)なんて、キヤノンはもちろん、富士フィルム、コダック、コニカ、AGFAなどかつてのフィルム・デジカメメーカーが、みーんなメディカルにシフトしちゃった。フィルム屋さんになろうと思っていたのに、放射線科医と仕事しなくてはいけなくなった人、沢山いるんですよね。そんなふうに、異分野から医療AIや当講座に入ってくれる方もいるかもしれない。竹永さん、秋山さんにはそうした方々に、どこに苦労があるのか、是非教えて頂けるとうれしいのですが……

AI開発基盤部門座談会での三木先生(左)と野村先生(右)。野村先生は2021年7月1日付で千葉大学フロンティア医工学センターに異動し、准教授としてご活躍です。

竹永:「医工連携の苦労がどこか」というご質問に期待される回答ができなくて申し訳ないのですが、当講座に入ってから、分野が異なることが原因で困ったことはほとんどありません。一緒に研究を進める放射線科医の先生方はプログラミングに秀でており、理解があります。就職時、診療放射線技師として医工学系研究者になるにあたり、医工連携の橋渡しとなる人材となることに自身の有用性があると思っておりましたが、現状どちらも中途半端であると感じています。どこか尖っている部分が必要だと感じ、尖らせ中です。

野村:言葉の違いは、我々の中にもあったりします。放射線科のAI研究でも、「アルゴリズムの開発」をメインとする先生方もいらっしゃいます。花岡先生や柴田さん(当寄附講座の特任研究員のひとり)の論文ではアルゴリズムの説明で数式が多数出てきます。

―――実は次のAI人材座談会は、「アルゴリズムの開発」の皆さんなんですよ。医局のAI特集はまだ続きますし、お二人には将来、さらに発展したお姿で出てもらうと思いますから、引き続き頑張って下さい! 本日は長時間お付き合いいただき、ありがとうございました。

(この項おわり)